日本軍のインテリジェンス〜なぜ情報が活かされないのか,小谷賢,講談社選書メチエ,p.248,\1600

 日本軍の欠陥をインテリジェンスの面から切った書。インテリジェンスに絞ったため牽強付会の面もあるが,研究が進んでいなかった分野で初めて知る話も多いので楽しめる。日本軍が中国で偽札をばら撒いたエピソードや,海軍の機密文書を米国に奪われた海軍乙事件など,「へぇ〜」である。特に後者は,米国の巧妙さと日本の脇の甘い体質が出ていて興味深い。
 暗号解読などで優れた技術をもちながら日本軍はなぜ敗れたのか。筆者は,原因を日本軍のインテリジェンス意識の欠如に求める。具体的には「作戦重視,情報軽視」「長期的視野の欠如」「セクショナリズム」の3点を挙げる。いずれも日本の企業文化に通じる欠点である。例えば作戦重視,情報軽視は,マーケティング不在,勘・経験・度胸が跋扈する様子を思い出させる。最初に作戦(方針)ありきで情報はその目的を正当化するために使われ,方針に反する情報は黙殺されるか曲解される。つまり情報が政治化されてしまう。各人がゴミ箱にゴミを投げるように議論を交わし,一致した結論の出ないままいつの間にかゴミが収集される。そしてまた新しいゴミ箱が用意され,不毛な議論が繰り返される。自戒しなければ・・・・