新聞記者 疋田桂一郎とその仕事,柴田鉄治,外岡秀俊編,朝日新聞社,p.294,\1200

朝日新聞の記者だった疋田桂一郎が残した新聞記事・天声人語・講演などを,後輩たちがまとめた書。本多勝一辰濃和男鎌田慧といった面々が短い囲み記事を書いている。基本的にはジャーナリストという職業に興味のある人向けの書である。新聞記者の面白さと同時に,背負っているものの重さ,サラリーマン・ジャーナリストの限界を感じるには打て付け。朝日新聞の宣伝臭さが多少気になるが,それを除けば一般の方が読んでも損はない。
 疋田については天声人語の著者だったことくらいしか知らなかったが,「管理職にするには惜しい」という評価はなるほどと頷かされる。50年以上も前の記事が掲載されているが古さは感じない。東大山岳部の北アルプスでの遭難に関する記事や,朝日新聞誤報に関する検証報告書(社内報に掲載された),社内研修の内容など興味深いものが多い。東大生の遭難記事は1959年のものだが今読んでも迫力があるし,誤報が生まれた過程を丹念に検証した報告書は現在でも十分通用する。後者は実に深刻。何十年たっても新聞は成長していないし,警察発表を鵜呑みにして体制側の情報を垂れ流す姿勢を改めていないことがよくわかる。
 それにしても疋田の天声人語は秀抜である。本書では1章を割いて4年間分から抜粋して載せているが,文章が流れるようで実にうまい。文末のバリエーションをみているだけでも勉強になる。新聞における文章が「安易に流れている。日本語として汚い」という社内研修での発言も掲載されているが,おっしゃる通りである。