間メディア社会と〈世論〉形成―TV・ネット・劇場社会,遠藤薫,東京電機大学出版局,p.260,¥3045

minami_chaka2008-11-08


 インターネットや携帯,新聞,TV といったメディア が世論形成にどのような影響を与えたかを論じた書。新聞や TV は言い尽くされたところがあり,本書における議論の中心はインターネットである。筆者がこれまで書いた論文を寄せ集めて作った本とあって,全体に散漫な印象を受ける。インターネットに対する筆者の理解が浅いのか,評者の読み方が悪いのか分からないが,当たり前のことを重要な発見のように論じるところに違和感を感じる。それにしても「間メディア」という造語はいかにも分かりにくい。間メディアとは,新聞・TV ・インターネットといった複合的なメディア環境における,メディアとメディアの相互作用や関係の変容を表す言葉と定義しているが,直感的には理解しがたい。
 本書では2004年の米国大統領選(ブッシュ対ケリー)におけるインターネットの活用法を紹介し,その影響を分析している。ただし「インターネット利用が今後拡大していく」という月並みな話で終始しており,内容に目新しさはない。唯一,2008年の大統領選挙でオバマが勝った要因の一つと言われた「少額献金」について数行触れているのが目立つ程度である。
 本書の趣旨からすれば,今回の米国大統領選は格好の材料である。2004年がインターネットの選挙利用の黎明期とすれば,2008年の大統領選は成長期に入った状況といえる。例えばサンフランシスコで開催されている Web2.0 では,政治ブロガー・ハッフィントン氏が「インターネットの力がなかったら、オバマは大統領になれなかった」と述べている(TechCruch 日本語版の当該記事)。インターネット選挙の教祖といわれるトリッピ氏の「オバマYouTube動画は全部で1450万時間分の視聴時間を集めている。オバマはオンライン動画からブログ、ソーシャルネットワーキング,選挙資金集めに至るまで,本当に選挙のあらゆる面でネットをテコにフル活用した」という発言も興味深い。インターネットがレバレッジとなった訳だ。