全集 日本の歴史 5 躍動する中世,五味文彦,小学館,p.370,¥2520

minami_chaka2008-11-09


 小学館の85周年企画「日本の歴史」シリーズは歴史の単なる紹介にとどまらず,物語性を重視したところが気に入って第1巻から購入している。歴史小説とまではいかないが,歴史上の登場人物や庶民の生活が生きいきと描かれているおり,従来の日本史全集と一線を画している。この観点からすると,5冊目である本書は“はずれ”といえる。ありがちな歴史紹介にとどまっており,残念ながら時代のにおいを感じさせてくれない。
 中世ともなると,史料がそれなりに充実しているために,思い切り創造をたくましくできないのは理解できるが,それにしても生活観に乏しい気がする。このシリーズの釣書には「政治や経済中心の権力者を追った歴史だけでなく,庶民の生活や文化にも注目。人びとを鮮やかに活写しながら,現代社会につながる生きた歴史に迫ります」とあるが,これを実現できているとは言い難い。
 評者が期待した内容から外れているものの,歴史書として見れば悪くない出来である。「躍動する中世」を紹介しようと多くの事柄を詰め込みすぎ,そのために焦点がボケたともいえる。もっと深彫りしてくれれば,面白い歴史書になったと思われる項目はいくつもある。例えば庶民の住居の話などは興味深いが,これだと“全集”という趣旨から外れてしまうのだろう。