The Race for a New Game Machine:Creating the Chips Inside the Xbox 360 and the PlayStation 3,David Shippy,Mickie Phipps,Citadel Press,p.240,$21.95

minami_chaka2009-04-18


 PlayStation 3に搭載されているマイクロプロセサ「Cell」の開発物語。ジャーナリストではなく,開発に携わった米IBMのチーフ・アーキテクトとプロジェクト・マネジャーが筆をとっているところが珍しい。開発の途中で発覚した凡ミスやソニー 久多良木からの仕様変更要求,ソニーが特許を独占しようとした件,米MicrosoftがXbos 360向けチップ開発で途中で割り込んできた話など,トピックが多くて飽きない。開発設計チームのマネジメント論や米国の技術者採用事情といったところも興味深い。技術者の文章だが,読みやすく仕上がっている(日本の技術者の文章は読みづらいものが多い)。小難しい英単語や言い回しが少ないのもありがたい。
 ただし本書を読みこなすには,そこそこの技術的知識が必要である。out-of-order,ファンアウト,プリフェッチ,クロストークなどの専門語が無造作に使われている。PS3向けCellとXbox向けマイクロプロセッサの違いは,専門用語を知らないと正確には理解できないだろう。本書を一般書ととらえたときの難点と言える。Cellの開発にはIBMのほか,ソニー東芝が加わったが,日本人技術者(評者が知っているか方も何人か登場)の技術力を認める一方で,英語力については手厳しい評価を与えている。技術者らしい率直な物言いだが,実名で登場しているソニーの技術者にはちょっと気の毒である。
 見所は,IBMソニー/東芝Microsoftを二股かけたことに端を発するドタバタ劇。しかも同じオースチンの開発センターに拠点を置いたので,ソニー東芝の技術者にバレないように四苦八苦した様子が描かれている。ソニーMicrosoftのゲーム機に関する考え方の差も興味深い。Microsftはバグの存在を承知で当初の予定通り2005年のXマス商戦にXbos360を投入し,ソニーは2006年11月まで出荷を延期した。筆者はこの決定を,「Microsoftらしくリスクをとった」と皮肉っている。