メディア激震〜グローバル化とIT革命の中で〜,古賀純一郎,NTT出版,p.296,¥2310

minami_chaka2009-10-25


 情報技術やインターネットがジャーナリズムに与えている影響やメディア・ビジネスの今後の方向性を,落ち着いた筆致で論じた書。あのニューヨーク・タイムズが経営危機に陥ったり,日本の大新聞が赤字決算に陥るなど,メディアを取り巻く環境は厳しい。雑誌の休刊も相次ぐ。本書のテーマは時宜を得たものだが,内容的には可もなく不可もなくといったところ。全体によくまとまっているものの,新規の情報や知見があるわけでもなく,得るところはあまり多くない。
 本書が焦点を当てるのは主に新聞と通信社。雑誌や放送への言及はほとんどない。メディア激震というタイトルを考えると,読者数が400万人を超えるBusinessWeekが身売りするなど,窮地にある雑誌業界を除外するのは少々バランスに欠けると言わざるを得ない。
 対照的に充実しているのが,筆者の出身母体である通信社の記述。全8章のうち3章を割いて通信社の歴史や現状を解説する。本書で筆者が力説するのは,通信社と新聞社の棲み分けである。一般ネタは通信社に任せ,日本の新聞記者は深みのある“読者をうねらせる記事”に専念するべきと主張する。最大の問題は,深みのある記事を書ける専門性を身につけた新聞記者がどれだけ存在するのかどうかなのだが・・・。