狼・さそり・大地の牙〜「連続企業爆破」35年目の真実〜,福井惇,文藝春秋,p.229,¥1600

minami_chaka2009-11-08


 スクープの醍醐味が分かる良書。その昔,新聞記者は畳の上では死ねないとか短命だという話を聞かされたが,スクープを打ったときの達成感が何物にも代え難く,それが新聞記者を駆り立てるのだということを教えてくれる。
 題材は,35年前に起こった過激派による連続企業爆破事件である。この事件は,当時高校生だった評者の脳裏にいまも残っている。特に,多くの死傷者を出した三菱重工爆破事件の印象は強い。三菱重工だけではなく,三井物産鹿島建設大成建設などが爆弾の被害にあった。本書は,連続企業爆破事件の犯人逮捕時の写真を含め,スクープを飛ばし続けた産経新聞の取材班キャップが当時を振り返って取材過程の詳細を明かしている。スクープが汗と涙の結晶であり,取材先とのディープな付き合いの結果というのが文章の端々から伝わってくる。
 白眉は逮捕前後の話である。逮捕当日の朝にドンピシャあわせて特ダネを打ちたい新聞と,犯人が逃走するおそれから阻止したい警察との行き詰まる駆け引きからは緊張感がビシビシ伝わってくる。主犯である大道寺将司逮捕の瞬間を撮影した記者の話も興味深い。一度でもこうした緊張感を味わうと記者稼業はやめられなくなるし,逆に経験のない記者は不幸と言える。警察や検察の発表を右から左に流して満足するような現状の新聞に対する筆者の危機感とメッセージを感じる書である。