つぎはぎだらけの脳と心〜脳の進化は,いかに愛,記憶,夢,神をもたらしたのか?〜,デイビッド・J.リンデン著,夏目大・訳,インターシフト,p.352,¥2310

minami_chaka2009-11-09


 評者は脳科学の書籍を好んで読んでいるが,対象とする範囲の広さとまとまりの良さで本書はお薦めの1冊といえる。図も秀抜なものが多く分かりやすい。ただしコッテリとした内容なので,翻訳は悪くないものの最初から最後までを読み通すのは少々骨が折れるかもしれない。脳の設計,感覚と感情,記憶と学習,愛とセックス,睡眠と夢,脳と宗教といった具合に章が分かれているので,お好みの部分だけ読むのも手である。適当にピックアップして読んでも十分に楽しめる。
 興味深いのは,「脳の構造はいい加減」という指摘である。その場しのぎの進化を繰り返した結果,脳はツギハギだらけになってしまった。古い脳に付け足すようなかたちで進化したために,異様で非効率な作りになっているというのが筆者の結論である。この出来の悪さを,ニューロンの結びつきの強度やパターンを柔軟に変える可塑性がカバーする。迷路のような温泉旅館を,融通無碍なおもてなしの精神で補って高い評価を得ているようなものだ。
 人間の神秘を感じるのが「記憶」の仕組みである。短期記憶が定着して長期記憶になるプロセスや,夢が記憶の定着に果たす役割など興味深い話がてんこ盛りになっている。