技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか〜画期的な新製品が惨敗する理由〜、妹尾堅一郎、ダイヤモンド社、p.397、¥2520

minami_chaka2010-03-14

 「日本は科学技術大国だが、科学技術立国になっていない」。この問題意識が本書の基本にある。確かに技術で上回り、知的財産権を押え、国際標準を取得しても、ビジネスで海外企業(主に米国企業)の後塵を拝する例は少なくない。筆者は、こういう事態に陥る原因を解き明かし、克服のための処方箋を描く。切り口は悪くないのだが、この手の書にありがちな議論が多く、刮目に値するところは少ない。ただ議論は整理されているので、頭を整理する上では役立つ。
 ビジネスで成功するには、三位一体の経営が必要と筆者は主張する。三位一体とは、競争力のある技術の研究開発、知的財産マネジメント、普及のためのビジネスモデルを考えた企業経営である。こうした議論は、残念ながら目新しさに乏しい。事例も米Intelと米Apple、自転車のシマノと使い尽くされた企業を議論の中心に据えている。
 ところで本書の前提になっている「技術力で勝る日本」は、今でも通用するのだろうか。正直なところ、かなり怪しいというのが評者の最近の感想である。技術専門誌を読んでも、刺激に乏しい記事がならぶ。ビジネスとして成功するかどうかは別にして、「これは面白い」という技術はとても少ない。捲土重来に備え雌伏のときを過ごしているといった底力を感じない。本書が“無い物ねだり”になっていなければよいのだが…。