バーナンキは正しかったか? FRBの真相、デイビッド・ウェッセル著、藤井清美・訳、朝日新聞出版、p.416、¥2625

minami_chaka2010-05-17

 サブプライム問題に端を発した世界金融危機に、米FRB連邦準備制度理事会)のベン・バーナンキ議長がどのように対処したかを、日欧の中央銀行や世界中の金融界の動きなどを交え、米ウォールストリート・ジャーナル記者/コラムニストが克明に追った書。当事者への綿密な取材と高い見識で素晴らしいノンフィクションに仕上がっている。生き馬の目を抜く金融界の虚々実々の駆け引き、小説や映画のように次から次へと押し寄せる危機を本書は活写する。ピュリツァー賞の2度の受賞はだてではない。今回の世界金融危機(本書ではグレートパニックと呼ぶ)を振り返る意味で有用だし、米国メディアの底力を感じることのできるお薦めの1冊である。
 登場人物が多い書だが、主役はタイトル通りバーナンキ議長。マエストロと称され在職期間は評価が高かったアラン・グリーンスパン後継のFRB議長である(ちなみにグリーンスパンは、今回の金融危機の元凶と批判されるなど毀誉褒貶が激しい)。「大恐慌」を研究テーマにしていた元プリンストン大学経済学部教授が、実際に金融危機に立ち向かうというのは歴史の皮肉でだろう。ちなみに登場人物では、ティモシー・ガイトナー連邦銀行総裁の評価はそこそこで悪くないが、ヘンリー・ポールソン財務長官は徹底的に道化として扱うなど旗幟を明確にした書である。
 本書で興味深いのは理論と実戦のギャップを示す好例となっているところ。大恐慌を研究した学者バーナンキが、FRB議長としてはサブプライムローン問題を危機の始まりと認識できあかった。行動(施策)に負けず劣らず、伝え方(舞台設定や口調など)が重要という指摘も興味深い。ただし筆者のバーナンキ議長に対する評価は低くない。「当初は腰が引けていたが、リスクの大きさを理解してからは前例のない創造的で大胆な措置をとった」というものである。