選挙演説の言語学、東照二、ミネルヴァ書房、p.259、¥2400


 このところ贔屓にしている言語学者・東照二が、日米の政治家の街頭演説を分析した書。どのような演説が聴衆を引きつけるかを言語学的に解明している。実際に2009年の衆議院選挙の街頭演説に出向き、聴衆の反応まで取材するなど念の入れようである。米国の政治家では、レーガンオバマの演説を取り上げる。いつもながら示唆に富む指摘が多く楽しく読める。政治家に限らず、人前で話す機会の多い方にお薦めの1冊である。
 小泉純一郎麻生太郎鳩山由紀夫岡田克也野田聖子馬淵澄夫など政治家の実名を出して分析しており説得力を増している。野田と馬淵の演説は与党と野党の立場の差が明確に出ているし、小泉の演説は実に個性的である。小泉の演説は勇気を与えるものとして高く評価する。このほか岡田の演説の評価も高い。政治家としてのイメージと意外なギャップがあるという意味で興味深い。
 筆者が高く評価するのが、「感性に訴え、情緒の扉を開ける演説」だ。物語、経験、個人的な思い、気持ちなどを語り、聞き手との心理的距離感を短くし、共感を作り上げようとする「聞き手中心のラポート・トーク」と呼ぶ演説である。レポート・トークの対極が、自分中心に政策、情報を語る「話し手中心のリポート・トーク」。筆者がラポート・トークとリポート・トークの事例として挙げるのが、スティーブ・ジョブズビル・ゲイツのスピーチである。ジョブズは経験を伝えようとしているし、ゲイツはデータを伝えようとしているという。何となくよく分かる。
 ちなみに演説の秘訣は「SHARP」にあるという。つまり、S(Stories and example:物語、具体例)、H(Humor:ユーモア)、A(Analogies:たとえ)、R(References and quotaions:引用)、P(Pictures and visual aids:絵、写真、視覚に訴えるもの)である。参考にしてみてはいかがだろうか。