銃・病原菌・鉄〈下巻〉〜1万3000年にわたる人類史の謎〜、ジャレド・ダイアモンド著、倉骨彰・訳、草思社、p.332、¥1995


 壮大なスケールで描く人類史の下巻。筆者がエピローグで語っているように、最も理科系から離れている歴史学を、自然科学的な切り口で論じている。説得力のある論理展開は最後まで衰えを見せず、一気に読ませる。ボリューム十分なので、長めの休暇のときに読まれることを薦めする。
 下巻で興味深かったのは、「なぜユーロッパ人がアフリカや新大陸アメリカの征服者になったのか」「鋳鉄、磁針、火薬、製紙技術、印刷技術など、中国は多くの発明を生んだにもかかわらず、発展が遅れてしまったのか」という議論である。前者に対して筆者は、人種的な差ではなく、地理的および生態的な偶然のたまものだと述べる。大陸として広いことや東西に長いことの有利性、栽培したり家畜化が可能な野生種の分布の違いによるところが大きかったと結論づける。後者については、国内政治の混乱や権力闘争、内向きになった国内情勢が中国の足下をすくったと論じる。いまの日本に通じるようで示唆的である。
 上下2巻を通して筆者が強調するのは、食料生産の重要さだ。狩猟から食料生産に転換することで、人類は定住生活ができるようになった。蓄えた食料によって非生産民の専門職を養えるようになり、文字をはじめとした発明を生んだ。そして「発明が必要の母」となり、多種多様な文物や文化・文明を発展させた。食料生産は、人口密度や感染症に対する抵抗力の向上にもつながり、ユーロッパがアメリカ大陸やアフリカ大陸を席巻する原動力となった。