代理ミュンヒハウゼン症候群、南部さおり、アスキー新書、p.231、¥780


 代理ミュンヒハウゼン症候群を初めて知ったのは、2008年末に京大病院で起こった殺人未遂事件。母親が入院している子どもの点滴に、室温で10日放置したスポーツドリンクを混入して病状を悪化させた(殺害しようとした)というもの。覚えておられ方も多いだろう。本書は、代理ミュンヒハウゼン症候群とは何かについて、欧米における凄惨な事例を交え解説した書。代理ミュンヒハウゼン症候群にみられる計画性や綿密性、冷静な執拗さを、筆者は事例をもとに詳細に描いている。
 代理ミュンヒハウゼン症候群は、看病する献身的で“けなげな”親を演じる自分に酔い、子どもを故意に病気にしてしまう病理現象。理想的な親を演じ、医療関係者や親類縁者を巧妙に見方につける。子どもが次々に死亡しても、赤ちゃんの突然死として片づけられてしまう。
 筆者は法学修士を取得後、横浜市立大学医学部に入り直し、現在は同大学の助教。医学と法律の素養があるので、代理ミュンヒハウゼン症候群を病気として扱うべきなのか、犯罪として扱うべきなのかという議論は読み応えがある。本書は新書らしくコンパクトにまとまっており、興味のある方にはお薦めである。