権力の館を歩く、御厨貴、毎日新聞社、p.368、¥2625


 歴代の首相や有力政治家の邸宅・別荘、政府や政党の建物を訪ね歩いた書。吉田茂の大磯・別荘、鳩山一郎音羽御殿佐藤栄作の鎌倉別邸、田中角栄の目黒御殿、小沢一郎の深沢邸、首相官邸、国会議事堂、最高裁判所自民党本部などの建物を、数々のエピソードを盛り込みながら紹介する。佐藤栄作田中角栄福田赳夫など、政治家の建物に対する姿勢と政治活動との対比がなかなか興味深い。
 新聞連載の単行本化とあって、一つひとつの建築物に関する書き込みが足りない。政党や政府機関の建築物の説明はそこそこ詳しいが、政治家の“館”についての記述は建物自体の魅力への言及が少なく、建築好きの評者には物足りなさが残る。セキュリティ上の問題があり内部の写真や配置図などは出せないのだろうが、建築物をメインに据えた書だけに残念である。
 ちなみに筆者の御厨貴は政治家のオーラルヒストリーで知られる。この書評でも「渡邉恒雄回顧録」などを紹介した。その御厨が、建築への造詣が深いということを本書で初めて知った。