トレードオフ〜上質をとるか、手軽をとるか〜、ケビン・メイニー著、有賀裕子・訳、プレジデント社、p.275、¥1800


 製品やサービスを成功を導く秘訣を、多くの事例を示しながら論じた書。筆者はUSA Todayのテクノロジー欄を20年担当したジャーナリスト。エレクトロニクスやIT関連企業の取材から得た結論は、製品やサービスが成功する秘訣は「上質さ」と「手軽さ」のいずれかを選択すること。どっちつかずや、二兎を追う姿勢はいけない。画期的な内容の書ではないが、米General Magicや米AppleのNewtonといった昔懐かしい事例が多く登場し楽しめる。
 筆者の言う上質さは、最高のユーザー・エクスペリエンス(経験)とオーラ、個性によってもたらされる。NFLやライブ演奏、ハーバード大学、Jobsが戻ったあとのAppleの製品群などは上質の部類に属する。一方の手軽さは、入手しやすさと安さがポイントとなる。手軽さの代表格として、筆者はiTunesサウスウエスト航空ウォルマートを挙げる。一方で上質さと手軽さの両立をねらうことは、不毛地帯に足を踏み入れることを意味する。経営戦略として選択すべきではないと断じる。二兎を追う戦略で危機に瀕した事例として取り上げているのが、筆者の古巣・新聞業界、低価格帯の製品で市場拡大を図ったコーチやティファニーである。
 本書で気になるのは装丁。カバーや帯には『ビジョナリー・カンパニー』の著者ジム・コリンズの名前がデカデカと踊る。まるでコリンズが著者のようだが、実は序文を書いているだけ。これは少々酷い。どうしてこんなことになっているのか、内容が悪くないだけに残念だ。