ホームレス博士〜派遣村・ブラック企業化する大学院〜、水月昭道、光文社新書、p.214、\777


 人間環境学博士で、立命館大の研究員と同志社大非常勤講師を務めている筆者が、大学院と大学院卒業生の窮状を切々と訴えた書。博士号を取得しても就職できない状況や、非常勤講師という低賃金で不安定な雇用形態、東大卒の博士の就職率が約40%など、本当なのだろうかと思うような話が次から次へと登場する。こうした悲惨な状況を招いた国の文教政策を痛烈に批判している。筆者の主張がすべて正しいとは思えないが、日本の大学と文教政策の一面を知ることができる新書である。
 いやはや大学院は、凄いことになっている。評者の大学時代にもオーバードクターの問題はあったが、桁違いに悲惨になっている。そもそもの元凶は、需要と供給の関係を無視した国の大学院重点化政策にあるというのが筆者の主張。20年前に7万人だった大学院(修士+博士)の定員が、大学院重点化政策が始まった1991年には10万人、そして現在は26万人に急増。超高学歴の博士を増産したものの、就職先は限られる。とりあえずの非常勤講師は平均的に週に9コマを担当するが、その年収は320万円。週2コマとなると年収は70万円と100万円に満たない。しかも昇給なし、雇用保険なしと辛い。
 こうした状況を筆者は「国家の詐欺」と断じる。少子化によって経営が苦しくなっている大学と天下り先のポストを確保したい文科省の利害が一致した結果とみる。減少する大学生を大学院生の増加で補う訳だ。