ザ・ラストバンカー〜西川善文回顧録〜、西川善文、講談社、p.322、\1680


 住友銀行(現・三井住友銀行)元頭取で、日本郵政の初代社長を務めた筆者が、激動のバンカー人生を振り返った書。取り上げるのは、住友銀行天皇と呼ばれた磯田一郎との確執、安宅産業処理、平和相銀・イトマン事件、バブル崩壊にともなう不良債権問題、郵政民営化など。それぞれが日本の金融史において一大トピックとなった事件だが、当事者だった筆者が生々しく振り返る。自己弁護の部分がないとは思わないが、一級の回顧録なのは間違いない。
 山場の一つは、磯田一郎をめぐる裏話だ。「向こう傷を恐れない」経営スタイルで知られ、有能な銀行家として名をはせた磯田だが、ヤミの勢力に食い物にされたイトマンに深く関与し失脚した。長女かわいさのあげくビジネスマンとしての道を踏み外した磯田の弱さを明らかにする一方で、「悪人ではなかった」と人物を評価する。
 銀行再編の裏話も興味深い。住友銀行は、さくら銀行太陽神戸銀行三井銀行が合併して誕生)と合併することになるが、著者と旧さくら銀行の岡田明重頭取との親交が縁となったことを明らかにする。東京三菱銀行ではなく、なぜ三井系のさくら銀行を選んだかの理由についても明らかにする。合併話に比べ不良債権問題は、「不良債権と寝た男」と評された筆者にしてはイマイチ迫力に欠ける。関係者への遠慮なのだろうか。
 経済合理性とかけ離れた非論理的な政治に翻弄され続けた日本郵政社長時代については、愚痴っぽい話がぐっと多くなる。特に鳩山邦夫総務大臣との確執について詳細に振り返る。「かんぽの宿」「東京中央郵便局再開発計画」で両者は対立したが、本書を読むと何ともばかばかしい話である。