ウェブ×ソーシャル×アメリカ〜<全球時代>の構想力〜、池田純一、講談社現代新書、p.320、\840


 ウェブやパソコンの誕生と発展を米国文化の視点から分析した書。AppleGoogleFacebookが米国で誕生した思想的・社会的背景を、幅広い視野から解き明かす。新書らしい知的興奮を与えてくれる良書である。類書にない構想力の大きさが本書の特徴の一つ。情報技術やウェブの技術史については多くの書物が扱っており、評者もかなりの何冊を読んだ。しかし本書はそれらとは一線を画している。
 本書は技術と文化、社会を網羅的かつ統一的に扱い、斬新な切り口から新たな視点を提供する。登場人物もイノベータの面々にはじまり、学者、評論家、編集者と幅広い。Facebookマーク・ザッカーバーグAppleスティーブ・ジョブズ経営学者のマイケル・ポーターサイバネティクスのノーバート・ウィーナー、認知科学ドナルド・ノーマンが1冊の書籍に登場するだけでも、ちょっと驚きである。それぞれの人物の位置づけを明確にしており、頭の整理に役立つ。もっともザッカーバーグの行動パターンは、古代ローマである詩人ウェルギリウス叙事詩アエネーイス』の影響を受けているといった論理展開は、評者のレベルでは壮大すぎてついていけない。
 興味深いのは、米国のカタログ誌「Whole Earth Catalog(WEC)」に関する記述である。WECはジョブズスタンフォード大学の卒業式のスピーチで使った“Stay Hungry,Stay Folish”の出所元。1968年〜1972年にかけて定期的に出版され、当時のカウンターカルチャー(ヒッピーやドラッグに代表される)に強い影響を与えた。しかし、WECがジョブズに多大な影響を与えたからといって、パソコンやウェブを生んだのはカウンターカルチャーではないと論じる。一方で筆者は、WECが与える「全球という視座」に注目する。全球という視座につながる宇宙開発が、パソコンやIT、ウェブなど全ての出発点になったと結論付ける。