高橋是清と井上準之助〜インフレか、デフレか〜、鈴木隆、文春新書、p.255、\872


 現在の日本経済と経済政策を、昭和初期と比べながら描いたノンフィクション。主人公は、日銀総裁と大蔵大臣を歴任した高橋是清井上準之助。2人はもともとは上司と部下の関係にあり、昭和初期に活躍した大物政治家・エコノミストである。インフレ財政(国債発行)の高橋とデフレ政策(緊縮財政)の井上、経済政策の方向性は真逆だ。しかし信ずるところを突き進み、いずれも暗殺される。著者は、政治家の姿勢に対する私見を随所に交えながら筆を進める。味わいのあるノンフィクションに仕上がっている。
 高橋と井上は、金融恐慌や関東大震災が日本を襲った時代に財政を指揮した。しかも軍部が台頭・暴走し、大戦の足音が迫っている状況である。生命も脅かされ、実際に井上は右翼の血盟団に、高橋は2.26事件で青年将校に暗殺された。こうした難しい時代に舵取りを任された2人は、それぞれ金解禁とリフレーション政策という劇薬で日本経済の立て直しを図った。
 井上の金解禁は環境の悪さもあって日本経済を疲弊させた。一方、高橋のリフレ政策によって日本は世界に先駆けて不況から脱出した。「ケインズよりも早く世界大恐慌からの脱出策を編み出した」という高橋への評価を筆者は紹介する。