別海から来た女〜木嶋佳苗 悪魔祓いの百日裁判〜、佐野眞一、講談社、p.290、¥1575


 3件の殺人を行ったとして、2012年4月に死刑判決をうけた木嶋佳苗を追ったノンフィクション。佐野眞一の事件モノといえば「東電OL」だが、この事件も勝る劣らず特異だ。佐野はいつものように周辺を徹底的に洗いながら、目撃証言も自供もない事件の背景を奥行きをもたせて明らかにしていく。もっとも、木嶋の人格描写が妙に目立ち過ぎているところが少し気になる。佐野の筆を微妙に狂わすほど異常な人格なのだろう。平成の事件史に残る話なので、全容を知っておくのも悪くない。新聞の社会面を熱心に読んでこなかった方にお薦めの書である。
 佐野は木嶋事件を、怨念も流血もなく殺意の沸点が異様に低い、いまという時代でしか生まれなかった犯罪と言い切る。確かにインターネットの出会い系サイトで中高年の独身と知り合い、結婚をえさにお金を貢がせる。カネを巻き上げたあとは、睡眠薬で眠らせ、練炭自殺に見せかけ殺すといった手口は今風なのかもしれない。
 ちなみにタイトルの「別海」とは木嶋の出身地。佐野は北海道別海町に足を運び、名家に育った木嶋の人格がどのように形成されたかを親戚や同級生の取材で浮き彫りにしている。このあたりは相変わらず見事な手際である。