Think Simple〜アップルを生みだす熱狂的哲学〜、ケン・シーガル、高橋則明・、NHK出版、p.320、¥1680


 評者の本棚でジョブズ本を含むアップル本がどんどん増殖している。いまやIBM本やマイクロソフト本と肩を並べる。ジョブズ死後もアップルの勢いは止まっていないので、間もなく抜き去るのは確実だ。本書はそうしたアップル本のなかでもベスト3に入る。“Simple”というJobsの行動哲学にアップル成功の秘密を見いだし、多くのケーススタディを盛り込んだビジネス書である。アップルやジョブズに興味を持つ方にお薦めしたい。
 筆者は「Think Different」キャンペーンに参画し、iMac命名した広告会社のディレクター。Jobsとは付き合いは10年以上に及ぶ。Apple追放からNeXT設立、Apple復帰まで、Jobsをつぶさに見続けてきた人物だけに、興味深い逸話にあふれている。インテルやデルの広告キャンペーンにも携わった経験をもつ筆者は、アップルとこの2社のビジネスの違いを具体事例を挙げて論じており、説得力十分である。
 アップルが信じる「シンプル」という行動哲学は、言うのは易いが、行う(行い続ける)のは難しい。強烈な信念がないと維持できない。会社組織では、つい複雑さの誘惑に負けてしまう。当初はシンプルでエッジがたったアイデアも、会議を繰り返し、会社の階層を上るにつれて、角が取れると同時に複雑さの衣をまとう。結局、可もなく不可もなくの平凡なアイデアになってしまう。
 筆者はシンプルであり続けるためのポイントを10個挙げ、それぞれに1章を割く。具体的には、第1章 容赦なく伝える(Think Brutal)、第2章 少人数で取り組む(Think Small)、第3章 ミニマルに徹する(Think Minimal)、第4章 動かし続 ける(Think Motion)、第5章 イメージを利用する(Think Iconic)、第6章 フレーズを決める(Think Phrasal)、第7章 カジュアルに話し合う(Think Casual)、第8章 人間を中心にする(Think Human)、第9章 不可能を疑う(Think Skeptic)、第10章 戦いを挑む(Think War)である。