日本農業への正しい絶望法、神門善久、新潮新書、p.237、\777


 日本の農業に対する歯に衣(きぬ)着せぬ批判が持ち味の神門善久明治学院大学教授の新著。神門教授はこの書評で何度も取り上げている、お気に入りの論客だ。今回もパワー全開で、農政・農家・農協・消費者・マスコミ・識者に次々と鉄槌を下ろす。農業ブームは虚妄とさえ言い切る。期待に違わぬ内容なので、日本の農業に関心のある方にはお薦めである。マスコミや識者の傲慢さや有害さへの批判は少々耳が痛い。
 日本の農業に対する筆者の危機感はきわめて強い。それが文章を通じてビシビシ伝わってくる。例えばこうだ。日本農業は良い農産物を作る魂を失い、宣伝と演出でごまかすハリボテ農業になりつつある。「有機野菜はおいしい」「農業は成長産業」「日本人の舌は厳しい」といった言説がマスコミで飛び交うが、これらはいずれも“嘘”と断じる。例えば有機栽培は環境を悪くするし、食味も悪い。消費者は自らの味覚ではなく、能書きで農産物を評価すると手厳しい。
 金儲け主義の蔓延にも警鐘を鳴らす。「農家は純朴で善良」「農家は担い手不足で困っている」というイメージは必ずしも実態を表しておらず、農家が金儲けのために都合よくでっち上げたストーリーだと断言する。大規模農家が外国人を雇うのは、日本人の肉体が農作業に耐えられないからという指摘には唖然とさせられる。