レッドアローとスターハウス〜もうひとつの戦後思想史〜、原武史、新潮社、p.396、\2100


 この書評で2008年に取り上げた「滝山コミューン 1974〜戦後とは何か? 自由とは何か?〜」の著者が、対象を同じく西武沿線のひばりが丘団地に移して戦後の政治社会を追った書。滝山コミューンの主役は全共闘世代の教員と滝山団地に住む児童、その母親たちが中心となって作った地域共同体だったが、本書は共産党堤康次郎を軸に当時の世相を描いている。「滝山コミューン」と同様、「そんなこともあったねぇ」と右肩上がりでバイタリティにあふれていたあの頃を思い出したい方にお薦めである。
 タイトルになっているレッドアローとスターハウス。前者は西武鉄道が池袋ー秩父間を走らせた特急電車の名称。後者は日本住宅公団が作った星型(Y字型)の外見を持つ住宅のことである。この二つを象徴に、西武沿線の戦後思想史を浮き彫りにする。本書が扱う世相は多岐にわたるが、大きく西武鉄道堤康次郎)と東急電鉄五島慶太)の対比、共産党の興隆と衰退、住民運動、反米活動、モータリゼーション、レクリエーションといったところである。いずれもあの時代を感じさせ妙に懐かしい。