日本の電機産業に未来はあるのか,若林秀樹,洋泉社,p.302,¥1575

minami_chaka2009-06-02

 小康状態とはいえ経済危機が収まらない現状を考えると,この時期に刊行するのは勇気のいる内容の書である。リアルタイムでの動きがあまりに急激で,月刊誌でさえ辛く,単行本ではとうてい追い切れない。内容的にどうしても陳腐になりがちである。本書にも東芝や日立の社長交代を扱っていないなど同様の辛さがあるが,20年にわたって電機業界を担当した元アナリストの筆者はさすがにうまく状況をまとめている。産業全体を俯瞰するうえでは真っ当な議論を展開しているので,電機業界に詳しくない方が読んで全体像を把握するには役立つ。逆に,少しでも業界を知っている方々には,刮目すべき議論が少なく退屈かもしれない。
 本書は5章から成る。2009年の見通し,2010年以降の中期予測,電機業界の再編,技術動向,エレクトロニクス企業について論じる。第5章のエレクトロニクス企業の紹介は完全にオマケ。読み飛ばしても構わない。最後に苦言を一つ。富士フイルム富士フィルムコニカミノルタをコミカミノルタと誤記しているのは,電機業界20年の元アナリストとしては少々お粗末。特に前者は全編通して徹底的に間違っており筆者か編集者が気づきそうなもの。見逃されたのは不思議である。