環境問題を経済から見る〜なぜ日本はEUに追いつけないのか〜,福島清彦,亜紀書房,p.271,¥2415

minami_chaka2009-11-01

 EUを中心に各国の環境政策を論じた書。EUの目は,二酸化炭素排出の削減,さらには排出ゼロの「炭素中立」だけではなく,大気中の二酸化炭素の回収/貯蔵にまで向いているというのは少々驚きである。鳩山首相二酸化炭素を2020年に90年比25%削減を明言したことで騒がれたが,EUの考え方は一歩も二歩も先を進んでいる。環境問題を考える上で,お薦めの1冊である。
 化石燃料から再生可能燃料へというエネルギー源転換に対する投資に比重を置いているのがEUの特徴。それに対して日本は,途上国からの排出権購入と植林という小手先の対応に終始し,エネルギー源転換への投資には腰が引けているというのが本書の見立て。副題に「なぜ日本はEUに追いつけないのか」とあるが,彼我における意識の違いが大きすぎて絶望的な気持ちになる。
 本書は政策,経済,技術の面から環境問題を論じる。興味深いのは,新たなエネルギー源を「炭素収支」「エネルギー収支」「経済収支」といった観点から評価し,新しい産業と雇用を創り出そうというEUの動きだ。戦略的とはこうした行動パターンを指すのだろう。英国,ドイツ,フランスのエネルギー政策と産業政策を紹介しているが,欧州はしたたかである。
 もっともこの手の本には落とし穴がゴロゴロある。都合の良い数字やデータだけを取り上げて,強引に所期の結論に持ち込むのがよくある手だ(本書がそうだとは言わない)。とりわけ環境問題は油断ならない。例えば英国。本書は,2020年までに全家庭の電力を風力発電でまかなう目標を立てている国として英国を持ち上げている。一方で最近届いた FACT 11月号によると,英国は8年以内に電力不足に陥る可能性を政府自身が認めている状況にある。英国のシンクタンク研究員は,政府はエネルギー無策だと切り捨てる。何とも悩ましい状況である。
 もう一つ気になるのは,著者の数字の扱いが大ざっぱなこと。産業革命以前のCO2濃度の数字が,たった5ページのなかで3種類も出てくる。小さなことだが,本書の価値を台なしにしかねないだけに残念である。