Idea Man: A Memoir by the Cofounder of Microsoft、Paul Allen、Portfolio Hardcover、p.368、$27.95


 米Microsoft共同創始者であるPaul Allneの自伝。Bill Gatesとの出会いと決別、Microsoftを30歳で退社した後の人生を綴っている。300ページを超える本だが、英語は平易で読みやすい。前半はMicrosoftとGatesに絡む数々の裏話が披露されており、評者のようなIT業界関係者には興味深い。特にGatesに対する人物評には、シアトルの私立学校時代からの親友らしい指摘が随所にみられる。この部分を読むだけでも価値がある。Microsoftを離れた後の話が続く後半部は、米国の大富豪の生活を垣間見ることができる面白さはあるが、多くの方にとっては退屈かもしれない。
 読み応えがあるのは、Microsoft設立前後の話とMicrosoftを離れるときにGatesに送った決別の手紙。前者では、マイクロプロセサやパソコンの登場に伴う当時の熱気が伝わってくる。Gatesとピザとかじりながら、「ビジネスがうまくいけば、プログラマを35人は雇える」と語り合った話など、貴重なエピソードが盛りだくさんである。一方後者からは、MicrosoftとGatesに対するAllenの思いがひしひしと伝わってくる。現在のMicrosoftに対する視線は厳しい。図体が大きい普通の会社になっており、大企業病にかかり、官僚主義がはびこっていると断じる。4分の1は不要といった幹部の発言も紹介する。
 ちなみにタイトルである「Idea Man」はAllenを指す。本書の描くGatesは、優秀なプログラマという側面はあるものの、高校時代からFortune500企業に興味をもつなど経営に関心をもつ徹底的な現実主義者である。技術の将来性を見通す能力はさほど高くない。Allenがコンピュータ端末で新聞を読む時代、全ての人がネットワークでつながる時代、すべての机と家庭にコンピュータが置かれる時代を夢想したのに対し、Gatesはコスト面から即座に否定する場面が本書では描かれている。Allenの母親はGatesを「スリルを楽しむアドレナリン・ジャンキーで、崖っぷちギリギリを歩くEdge Walker」と評したという。お金に対する姿勢も、根っからの技術者であるAllenとは異なり厳しい。報酬をめぐっては常にAllenが譲歩したことを本書は明らかにする。
 Microsoft退社後の人生はすさまじい。バスケットやアメリカンフットボースのプロチームのオーナーを務めたり、SF博物館の設立、民間宇宙飛行機スペースシップワン(SpaceShipOne)への出資、地球外生命の発見を目的とした非営利組織SETI協会への寄付など、休む間のなく人生を楽しんでいる。巨万の富をもっているだけに投資意欲は旺盛だが、アップダウンも激しい。AOLへの投資で大もうけしたかと思えば、CATV会社チャーター・コミュニケーションズで失敗といった具合だ。しかし、こんな話が150ページほども続くと、さすがに飽きてしまう。