Steve Jobs、Walter Isaacson、Simon & Schuster、p.656、$35.00


 iPhone 4S発表の翌日10月5日に逝去したスティーブ・ジョブズの評伝。600ページを超える大著で、読み終えるまでにほぼ1カ月かかってしまったが、それだけの価値は十分だ。本書が出版されたのは、当初の予定から1カ月前倒しの10月25日。日米でほぼ同時発売というのも驚きである。原著をあえて読んだのは、日本語版では21章「Family Man」が削られているから。家庭人としてのジョブズを扱った章で、削られた理由はよく分からない。
 本書がジョブズ本の決定版であるのは間違いない。ジョブズの人生の表面(長所)と裏面(欠点)を微に入り細を穿って描いている。ジョブズが複雑な性格で、どれほど“嫌な奴”なのかは本書を読めばよく分かる。JobsやAppleに関してはJim Carltonの「Apple」やJeffrey Younの「iCon」など優れたノンフィクションがあるが、内容の充実度では本書に一歩譲る。IT業界やパソコン業界の裏側で繰り広げられていた逸話が満載なので、この業界に関心のある方々にお薦めである。Isaacsonという手だれの伝記作家の目を通してだが、ジョブズの強烈なメッセージがビシビシ伝わってくる。一読の価値がある。ただし何せ長いので、まとまった時間がとれる正月休みなどで読んでほしい。
 ジョブズの人生を一貫するものは、デザインへのこだわりと、シンプルさの追求である。誰も見ない製品の裏側にまで完璧を期すなど、その徹底ぶりはすさまじい。凡人にはとうてい真似できそうにない。ジョブズの完璧主義が、MacintoshiMaciPhoneiPadiTunesApple Storeなどの成功を生んだ経緯を本書は丹念に追っている。ジョブズの行動の背景にある仏教や禅への傾倒も興味深い。
 Apple、NeXT、Pixarといったビジネスでの成功物語と並んで、本書で特筆すべきなのはプライベートな面にかなり突っ込んでいる点。妻や娘との関係はもちろんだが、ガンとの闘いについても多くのページを割いている。死の床にあるジョブズゲイツが見舞った話や、近所に住む米グーグルの創設者ラリー・ペイジとの交流はちょっと感動的である。人生の最後におけるジョブズの姿を知るだけでも本書を読む価値はある。