横浜事件・再審裁判とは何だったのか〜権力犯罪・虚構の解明に挑んだ24年〜、大川隆司、橋本進、佐藤博史、高文研、p.239、\1575


 冤罪を晴らすために24年間わたって再審裁判を闘った弁護士たちの奮戦記である。こう書くと、血湧き肉踊るようなノンフィクションを期待するかもしれないが、本書はきわめて地味。担当弁護士やジャーナリストが、冤罪の経緯と構造、支援活動を淡々と論じている。文章もこなれておらず少し読みづらいし、再審における法理論や手続き論が中心なので退屈かもしれない。しかし24年にわたって闘った弁護士の思いは伝わってくるし、なかなかの力作である。現在の裁判にも通じるところが多く、読んで損はないだろう。
 本書が扱うのは、戦時下の1942年〜1945年にかけて神奈川県警察部特別高等課(特高)が大学教授や出版社の編集者など90人を検挙した「横浜事件」。冤罪事件である。共産主義活動と日本共産党再建活動という特高警察の筋書きにそった調書を書くために、拷問が繰り返され自白が強要された。治安維持法のもと有罪判決が下された。この有罪判決を覆すための再審裁判は1986年〜2010年の24年間、4次にわたって続けられ、最終的に実質無罪である免訴を勝ち取った。横浜事件特高警察と治安維持法を裁いた唯一の歴史的裁判と言われる。
 横浜事件は、単なる慰安旅行を日本共産党再建活動とこじつけ、雑誌『改造』に掲載された論文と無理やり関連付けた冤罪である。ありもしない話をでっち上げたために、前後関係を含め論理は矛盾だらけだったが、治安維持法下で有罪判決が下された。第3章では、有罪の根拠となった治安維持法の条文について、免訴を勝ち取った担当弁護士が詳述している。治安維持法の詳細は知らなかったので、この部分だけでも評者には勉強になった。