日本型リーダーはなぜ失敗するのか、半藤一利、文春新書、p.262、\819


 「日本のいちばん長い日」「昭和史」「幕末史」などで知られる半藤一利が、太平洋戦争時の陸海軍の軍人たちを俎上にあげ指導者論を展開した書。名著「失敗の本質」や「大本営参謀の情報戦記〜情報なき国家の悲劇」と共通する個所が少なくないが、歴史探偵を自任する筆者らしい切り口で説得力のあるビジネス書に仕上がっている。決断できない、現場を知らない、責任を取らないなど、昭和期の陸海軍の指導者に対するコメントは手厳しい。教訓に満ち、示唆に富む指摘が多い書である。お薦めの1冊だ。
 筆者は東日本大震災で起こった原発事故への対応に、太平洋戦争時と変わらないリーダー不在ぶりをみる。政府や東電幹部の当事者能力の欠如。ヘリコプターや機動隊の放水車で原子炉を懸命に冷やすさまは、ガダルカナル島における「戦力の逐次投入」とそっくりだと嘆く。もっとも半藤は、日本にこれというリーダーがいないのは日本人そのものが劣化している証左であり、国民のレベルにふさわしいリーダーしか持てないのは歴史の原則だと指摘することも忘れない。認めざるを得ないところだ。
 筆者は、日本型リーダーが生まれた過程を日本の陸海軍の人事制度や教育制度、歴史を丹念にたどることで明らかにする。歴史探偵の面目躍如である。御神輿に担がれるだけの日本型リーダーが、それを補う参謀の必要性と地位を高めた。さらに日本陸軍の教育制度の欠陥が加わり、リーダーの権威を笠に着て権限を振り回す参謀を生んだ。本書が挙げるダメ参謀たちの行状は実に情けない。
 本書はリーダーに必要な条件を六つ挙げる。「最大の仕事は決断にあり」「明確な目標を示せ」「焦点に位置せよ」「情報は確実に捉えよ」「規格化された理論にすがるな」「部下には最大限の任務の遂行を求めよ」である。それぞれの条件を具体的な事例を用いて裏付けている。ちなみに筆者は日本海軍の名将を4人挙げている。阿南惟幾、寺内正造、山口多門、栗林忠道である。