日本の歴史 14:「いのち」と帝国日本、小松裕、小学館、p.370、\2520

minami_chaka2010-03-22


 日清・日露戦争から1920年代までの時代に焦点を当て、日本の権力者が人の“いのち”をどのように扱ってきたのかを論じた書。ポイントは「いのちの序列化」である。人々のいのちに序列をつけ、一方は優遇し、他方は抹殺する政策をとると当時に、それを国民に当然とことと思わせた。数々の具体例を示して、いのちの序列化の事実を明らかにする。
 このほか庶民から見た戦争の姿、いのちの序列化への抵抗、米騒動の実態、病気や他国に対する差別意識など、史実を織り交ぜて持論を展開する。植民地での日本の蛮行、ハンセン氏病への差別、女工の実態などやりきれない話も多い。大学教授が書く歴史書は退屈なものが少なくないが、本書は最後まで飽きさせない。
 「いのちの序列化」を可能にしたのは「文明 対 野蛮」の構図である。日本にとって日清戦争が文明国クラブに仲間入りするための「入学試験」であり、ヨーロッパの大国ロシアを相手とした日露戦争が「卒業試験」だったと著者は言う。卒業試験をなんとかクリアした日本は、次第に傲慢になっていく。日本国民を「文明」側に置き、他国(清国やロシア、韓国など)を「野蛮」側と考え下位に位置づける。この思い上がりが破滅へとつながっていく。